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凸版文久見出し明朝:その使用(仕様)上の注意点

モリサワパスポートに新たに加わった「凸版文久見出し明朝 EB」について、少し気をつけなければならないことがあるので、備忘的に記しておきます(主に己の必要性から)。


まずは、右記のリンク先をご覧ください。→ 凸版文久見出し明朝について


上記リンク先には

「文」「公」「延」などのように、文字セットには含まれないデザイン差のある文字を、フォント単位で切り分けて収録していることです。「凸版文久見出し明朝 EB」が準拠するAdobe-Japan1-3は、こうしたデザイン差のある文字を十分に収録することができませんが、[Std]フォントと[StdN]フォントに、それぞれ異なるデザインの文字を割当てることで、この問題を解決しています。

とあり、「[StdN]と[Std]で文字のデザインが異なる75字」として画像が掲げられています。


ここにも同様な一覧を掲げておきます。



つまり、一般的なStdとStdNの関係とは少し異なり、Stdでは筆押さえを残した字形にしてあるということです*1
使う身としてはせめてAdobe-Japan1-4準拠程度の文字セットが欲しいのですが、見出し用の書体でもあり、開発コストもかかりますので、Adobe-Japan1-3のStd仕様で我慢して、「N」の有無により字形を切り替えられるようにした……苦肉の策といえるでしょう。
※付け加えるならば…例えば「支/又」などについてはAdobe-Japan1-6準拠としても切り替えることはできません。


筆押さえに関する経緯を大雑把に記しておくと……

78JISや83JISの例示字形では筆押さえのある字種も多くあったのですが、90JISでは例示字形を示す書体の変更に伴い筆押さえが削除された字形となりました*2
さらに、一般的な明朝体の「表外字」は筆押さえを残してあるものが多かったのですが、そのうちの1,022字を掲げた「表外漢字字体表」では筆押さえを削除した字形を例示したことに伴い、04JISの変更もそれに倣ったものとなりました。


筆押さえを残した字形は、このようなウエイトの見出し用の明朝体では好まれる傾向にあり、思い切った実装は歓迎すべきことでしょう。
以下のように各フォントベンダー共に(ほぼ)Std仕様*3ですが、同様に筆押さえを残しているものが多いですね*4



ここまではいいのですが……
ご存じのように、04JISでは(「表外漢字字体表」に倣ったモノを含め)168字の例示字形が変更されましたが、中には83JISの例示字形変更を元に戻す……つまり拡張新字体ともいわれる常用漢字に倣った簡易字形を正字に戻す方向への変更も多くあります*5


以下に、その168字を掲げてみます(冒頭の75字との重複あり)。



ご覧の通り、04JISでの変更は「Std」には反映されていません、当然ですね。
わざわざ筆押さえの付いた字形を使っているのに、簡易字形も多く見られる……そんなチグハグな結果になってしまします。
※上に例示した中では「秀英初号明朝 撰」以外はほぼ同様です(もちろん部分的にはN付き相当の異体字は実装されています)。
参照



字形パネルのメニューには「印刷標準字体」や「JIS04字形」という選択肢はありますが、適用しても何ら変化はありませんし、当然、字形パネルの表示を切り替えるメニューにはありません*6
つまり、筆押さえの付いた字形を使いたくて「Std」を選択しても、「印刷標準字体」様の字形に切り替えるには「JIS78字形」や「expt字形」を流用し、その範囲でしか切り替えられません。


StdNでは以下のようになります。


  • 04JISで髭を剃られた「表外漢字字体表」【内】の字種、髭を生やしたママの「表外漢字字体表」【外】の字種…


これらを重ねると…


  • StdNを基本にして筆押さえを付けるには(冒頭の75字は当然として)04JIS変更の168字の中では「廻/釜/鍵/梗/叉/鮫/杖/挺/駁/斧/籾/爺/咬/狡/甦/筵/腱/虔/靱」あたりに注意が必要だということがわかります(冒頭の75字と重複していない「」については末尾を参照ください)
  • また、不統一の残る部分字形「支/曼」に筆押さえを付けるべきかどうかも判断に悩むところです

参考→ すべてを重ねた画像


結局のところ、筆押さえを付け、かつJIS04の変更*7をも反映する場合の手っ取り早い対応策としては、基本的には「StdN」を使うことにして…筆押さえの必要な文字を特例文字に登録して書体を「Std」とした「合成フォント」を組む…あるいは、筆押さえの必要な文字に正規表現スタイルで書体を「Std」に設定した文字スタイルを適用する…ということになるでしょう*8

この他にも、83JISで例示字形を変更され97JISで包摂分離された29字にも注意が必要なのはいうまでもありません*9
唖焔鴎噛侠躯鹸麹屡繍蒋醤蝉掻騨箪掴填顛祷涜嚢溌醗頬麺莱蝋攅
啞焰鷗嚙俠軀鹼麴屢繡蔣醬蟬搔驒簞摑塡顚禱瀆囊潑醱頰麵萊蠟攢

          • -

なお、「Std」でも「StdN」でも筆押さえの付かない「籾」(U+7C7E)には問題が残りますが、CID7800(expt字形)を使用(適用)すればいいでしょう。

*1:一般的にN付き書体は2004JISの例示字形変更に準拠した字形ですが、Nなしは90JIS準拠の字形となっています

*2:他にも、例えば部分字形「耳・兆・非」を持つ字種が変更されており、一部は04JISで復活しました

*3:「游築見出し明朝体」については→ 游築見出し明朝体の文字セット、「秀英初号明朝 撰」については→ 秀英初号明朝 撰について

*4:付ける/付けないの判断に微差はありますが…

*5:もちろん、「表外漢字字体表」【外】だったために戻らなかった字種や、JIS X 0213制定時に別コード位置に復活した字種(つまり両方ある)もあります

*6:Stdの文字セットなのでそれらへのGSUB機能は設定されていないのでしょう

*7:もちろん筆押さえの件は除外

*8:後者がより簡単でしょうね

*9:JIS X 0213では別コードに(ユニコードも別)…なのでN付き云々ということとは別の話…