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人名用漢字についてのメモ

またまた前言を翻して、ややこしくて判断に苦しむ理由というか何というか……をメモ程度に。


従来、例えば手書き原稿に「木又(権)力」と略字で表記してあっても「権力」と入力する(あるいは印字する)のを常識としてきた。
書籍組版の場合、それとほぼ同様の理由から常用・人名用漢字以外は「いわゆる康煕字典体」を基本に組むようにしている*1
勿論、この字形の処理に関してはテキストデータで支給されても、その打ち出し(プリントアウト)が付いていてもなんら関係がない(参考にならない)。


で、さらなる選択肢に「人名用漢字をも『いわゆる康煕字典体』に」ということがあるのだが、これがややこしくて、単に一括変換しても問題がありそうで……。


JISの例示字形変更に則して挙げていけば。


83JIS人名がらみの4組8字「尭・槙・遥・瑶」と「堯・槇・遙・瑤」。



これらは81年の人名漢字の追加をうけて、JIS X 0208: 83で従来のコードに「いわゆる拡張新字体」の人名漢字を入れ、元の字体は別コードに移動されたものだが、「堯・槇・遙」については2004年に人名漢字に追加された。


81人名の追加変更をうけて83JISで変更した「慧・昂・冴・渚・梢・翠・琢・那・遼・皓・翔・迪」と、90人名追加を先取りしたといえる「采・曙・黛・啄・巽・柊・媛・耀・蓮」、及び90人名追加をうけた90JIS変更の「晟・燿」。さらにJIS例示字形変更とは無関係だがexptでは別の字形の「拳(90人名追加)」と83JISで変更されたママ04人名に追加された「梛」。



下欄が概ね「いわゆる康煕字典体」だが、図に示した通り(各文字の下の数字は上からCID/Unicode/sift-JIS/JIS面区点)、「渚(7700)」はJIS X 0213の1-86-87、「琢(7732)」は1-88-05に入っており、2004年に人名に追加された。
尚、下欄は基本的には78JISで呼び出される字形だが、「冴(13787)」及び「拳(7969)」については新字源の字形に依った。「昻(7680)」は新字源では俗字とされているので「いわゆる康煕字典体」ということではないのかも(勉強不足)。


90人名追加に関連してJIS X 0208: 90で追加された「凜(8284)・熙(8285)」については、



「凜(8284)」の俗字とされている「凛(4242)」が04人名で追加されたことや「煕(5569)」が新字源では本字とされていることが悩ましい。


さらに「曽・曾」「桧・檜」「栄・榮」は両方が人名用漢字なのに対して、「蛍・螢」は「蛍」のみが人名用漢字という点も判断に苦しむ*2


なお、04人名追加の際にはJIS X 0213:04で例示字形を「いわゆる康煕字典体」に変更あるいは追加された文字のかなりの部分が人名用漢字に追加されているし、互換29字の「いわゆる康煕字典体」側の多くも追加されている。


まとまりのないものになってしまったが、どうしていいか判断に苦しむので処理はしない方向で……という結論に。
たしかに、人名用漢字というだけあって人名に使われる場合が多いので(人名用漢字に限らず固有名詞全般の字形については)要確認ではあるが、その方法が打ち出しテキストなどとの照合ということでは不十分なのはいうまでもない。


以下参考:すべて安岡孝一
「人名用漢字別表の変遷」
「人名用漢字の新字旧字:『蛍』と『螢』」
「蛍はなぜ第1水準にあるのか」
「JIS漢字案(1976)とJIS C 6226-1978の異同」
※とくに最後の文書は、exptで呼び出される字形も散見され、大変興味深く拝見した(斜め読みだが……)。*3


以下、080630 13:50頃追記
思いがけず安岡孝一さんご本人からコメントをいただいた。素直に嬉しい。
ご本人がリンクを張られていないので気が引けるが、件の論文は安岡孝一の論文 (PDF版)の上から6個目(080630現在)*4

*1:InDesign+OTFに本格的に移行してからの話。それまでは可能な限りはBiblosで対処していた(Quark+CID or OCF)。

*2:前の処理では「曾・檜」を採用した

*3:コレに関連した小形さんの記事

*4:私の環境では後ろの[著者ゲラ]しか正常に表示できない