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悩む_全集などの字体・字形の処理

刊行済みの数冊の書籍を全集などに纏めるにあたって悩むのが字体の処理。
各書籍毎の刊行時期や印刷所の環境あるいは(刊行時の)著者の意向・編集の判断もあり、底本には(字種は同じでも)様々な字体が入り混じっているのは当然のこと。
さらに、活字が主流の頃の書籍では一冊の中でも文字サイズによって字体・字形が異なる例は屢々目にする。
刊行時のそれぞれの字体に合わせて処理する方法もあるかも知れないが、一般的には全体を一定の運用方法で処理し、そのことを凡例などに明記するというのが普通だろう。


しかし、字体・字形に疎い方も多く、とりあえず……と、任されてしまうことがよくあるのも現実。嬉しいような困るような……複雑な心境なのだが、「エイヤッ」と簡単に判断できない場合も多々ある(とくに人名用漢字の扱いとごく最近の改定常用漢字表告示に絡んで)。


最近もそんな例があった。
最初の原稿の凡例には「作品の表記については、漢字の字体、仮名遣いともに、各歌集に用いられたものを原則とした。」とあり、「ホンマ? どうするの?」と訊くと、「そこは無視して……あなたの判断に任せる」とのお言葉。ならばと、常用漢字の改定前の自前の置換テーブルで処理*1し、とりあえず初校を出した。


案の定、朱書きが返って来た際には、先の凡例の一文は削除されているのはいいのだが、字体・字形に関して少々の書き込みがあった。
確認のためにお送りしたメールの例を掲げておく(実際のモノに加筆修正。大意は同じ)。

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【ご指摘の漢字の字体・字形に関して】


常用漢字部分
朱書きから判断すると、底本は常用漢字表制定(1981年)前後(境目)の刊行であるため「蛍/褐/喝/癒/遮/挿/泡」などが旧字体となっているようですが、出版界の一般的な処理方法に則り現状では、旧字体で入力されていた「螢」以外は新字体で初校をお出ししました。
また現状で旧字体となっている「麵/曾」は昨年の改定常用漢字表で「麺/曽」の新字体が追加採用されました。
常識的にはすべて改定常用漢字表の字体(新字体)とするべきであろうかと考えます。
(「螢/麵/曾」などはある種のこだわりとして旧字体でもいいかと思いますが……)


なお、刊行時には既に当用漢字であった「鎖」が旧字体であることは理解に苦しみます。
当用漢字表では旧字体ですが、当用漢字字体表で新字体が採用されたハズです)


人名用漢字部分
また別にご指摘の「渚/蓮/翔/曙/梢/柊/啄/冴/遙-遥/(上記の曽-曾)/那/采」などは人名用漢字とされているものです。
出版界では(一般的には)これらも人名用漢字の字体を採用するため、特に処理せず(主に新字体)初校をお出ししました。
※「遙-遥」に関しては入力コード位置の字体ママ:使い分けておられることに気付きませんでした(当方のミス)。両方の字体が人名用漢字とされていますので、すべて旧字体でも問題ないかと思いますが、現状のように混在するのは賛成しかねます(朱書きにも両字体があります:入れ替える指示)。


ただ、人名用漢字については新字体を採用しない(旧字体)とする処理方法もあり、そちらのご判断を仰ぐしかありません。
どちらにせよ、処理自体はご想像されるほど面倒なモノではありませんのでご遠慮なく……。
なお、末尾の「那/采」についてはこれらも昨年の改定常用漢字表新字体が追加採用されました。


●髭(筆押さえ)の有無
「曼/蔓/翅」については筆押さえのある字形をとのご指示ですが、これは使用フォントのメーカー判断に委ねられます(旧来の活字でもメーカーによってまちまちです)。
この全集に関しては、基本的には「八屋根・髭(筆押さえ)付き」の字形を使用していますが、この三字に関しては「髭(筆押さえ)」の付いた字形は実装されておりません(調べた範囲ではモリサワというメーカーのリュウミンというフォントには付いていましたが、「曼」のみです)。

作字して髭を付けることも可能ですが、上記の事情をご理解いただくようお願いいたします。
※筆押さえとは異質ですが、「谺」の旁部分4画の字形についても同様な理由でご理解ください。


*「改定常用漢字表」告示以前のものですが、手持ちの資料を添付しましたので、ご一読ください。

字体運用の資料.pdf 直 (アイコンをクリックするのがベター)
Google docs では粗い表示ですがダウンロードしていただくと鮮明です)


なお、凡例には以下のような一文を追加すべきかと思います(あくまでも一例です。「螢/麵/曾」や人名用漢字「遙-遥」の扱いによっては……)。

漢字の字体については、常用漢字に関しては通用字体を、人名用漢字には原則として人名用漢字字体を採用し、それ以外のものは「いわゆる康熙字典体」とした。なお、印刷環境あるいは解釈の違いによる微細な字形差については、ご理解いただきたい。

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蛇足になるが、ユニコードJIS X 0213の普及によって旧字体も容易に入力可能な環境が整ってきた今日この頃。今まであまり自前の置換テーブルとしては意識してこなかったが、(常用漢字に関しては)旧字体で入力された文字を新字体のコードに置き換える処理や人名用漢字の新・旧併記の場合はどちらかに統一するという処理も必要なのかも知れない。

*1:常用・人名用は八屋根・髭付きに、それ以外は「いわゆる康煕字典体」に