なんでやねんDTP・新館

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あるメールの質問に答えて…

先日、東京のデザイン学校で学ぶ方から質問メールが来ました。
「+designing」誌の読者の方のようで、このように反応があるのはありがたいことです。

まず、質問内容*1……

段落スタイルや文字組みアキ量設定を勉強していくうちに「そもそも、美しい本文組版とはなにか」という疑問に突き当たりました。
「+designing」誌を読んでいると、「設定はこうするといい」という情報はのっていても、「そもそも、なぜその設定がいいか」という情報があまりなくInDesignの設定という表面的な情報を知るのみで「組版の本質」を理解する事ができません。
学内で講師陣にお聞きしてみても、「そんな事考えた事が無かった」という方ばかりで、とても困っています

というような内容ものでした。
※前段にInDesignをご使用の旨が記されていました。

設定の意味というか動機・目的はなるべく書くようにしているつもりなのですが、「なかなか伝わり難いものなんだなあ」と少し反省しています。
このブログの読者の方にも何かの役に立つかも知れないので、私の返信をここに公開しておきます(少々の追記、誤植訂正を含みます)。

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〇〇さま はじめまして。
講師の方たちとのやりとりに驚愕いたしました…w…。
ごく簡単に答えておきますね。

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まず、本文とタイトル/見出し類と別に考えましょう。

タイトルや見出し、小見出しなどは、場合によってはツメ組み(プロポーショナル組み)、ベタ組、アケ組みと適宜最適な組み方があるでしょう(もちろん書体の選択も含めて)。
※ここについては特にお悩みではないでしょう。
一方の本文組版については…(文芸書などの一般的な書籍では)本文は「いわゆるベタ組み」が読みやすく、内容が頭にすんなり入ってくる組み方であると考えています。
※カタログなどのスペック組みや、会社案内などの本文ではプロポーショナル組みが好まれるかも知れません。
 ↑これはまた別と考えます。
※但し、本文系のプロポーショナル組みにおいても、句読点や中点類など約物の後(前)にはある程度のアキが必要だと考えています(文章を読む際のリズム、息継ぎとして必要だろうという程度の動機です)。

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「いわゆるベタ組み」と「ベタ組み」に「いわゆる」と付したのは「ベタ組み」の定義が曖昧なことを念頭に置いてのことです。
『日本語文書の組版方法』(JIS X 4051)やそれに準拠していることを謳うAdobeのアプリでは「ベタ」はアキのない状態を指します。
つまり、「ベタ」では句読点や括弧類、中点類の字幅は半角扱いでアキは挿入されません。
それに対して「いわゆるベタ組み」としているのは、
約物は基本的に全角扱いで、それらが連続する場合など一定のルールに基づいて(不要と判断される)アキを削除する*2
という意味です。
※「ベタ組み」という用語はJIS X 4051では使わないようです(見落としでなければ…)。
※JIS X 4051の「ベタ組」は文字と文字との関係を指すもので、3文字以上の文字列に対しては使わないというようなニュアンスのことをお聞きしたことがあります。
参照

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その「いわゆるベタ組み」の本文の場合でも、(行頭行末揃え:ジャスティフィケーションの際には)禁則処理や先の約物の連続あるいは和欧混植などによって、指定行長との差が当然発生してきます(その差を調整して行頭行末揃えにする必要があります)。
その際に問題になるのが、どこで調整するのかあるいは「追い込む」のか「追い出す」のかということになります。
ここで、(私の場合は)InDesignでは「調整量を優先」を適用して、極力「追い込む」方向で処理するのがベターだと推奨しています。
それは、「追い出し」では「追い込み」に比して、調整量が多くなる傾向にあり、「追い込み優先」では「禁則処理」に関わる場合のみにしか発動しないということが念頭にあります。
※行末をハミ出る「。」の半角を「追い込む」のと「す。」の「す」1角分を「追い出す」のとを比べて考えてみてください。

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禁則調整方式のうち、「調整量を優先」以外は「禁則処理」に関わる場合のみにしか発動しません*3
もし、本文中の括弧内の文字サイズを小さくするとか、和欧混植など様々な要因によって900/1000em分の誤差が発生しても、(行末/行頭の)禁則処理に関わらなければ、その誤差(アキ)は行中に分散して配分されますが、「調整量を優先」では、残る100/1000emを行中で解消できれば次の文字を追い込んでくれるのです。
※簡単な作例でInDesign上でシミュレートしてみればすぐ理解できると思います。*4
参照

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で、(端折りますが)+designingさんのページなどで配付している「文字組みアキ量設定」の内容は、ある特定部分の「最小値」に「マイナス値」を設定することで、長調整の際に約物に調整が集中するのを避け、調整がなるべく目立たないように処理されるようにしている…ということになります(優先度を破棄して、約物類の最小値にレベルを設けているのも同じ理由です)。
※「強い禁則」「行末約物半角」「全角スペースの行末吸収」「連数字処理」などを忌避するのも、主な動機はそこ=行長調整を意識させないことにあります。*5
つまり、私の推奨している本文組み用の設定は、それが読みやすく、内容が頭にすんなり入ってくる…そして、読み手になるべく行長調整を意識させない…そんなことを考えた設定としているつもりです。
(もちろん私の拙い経験から導き出された結果でしかありませんから、異論はあるでしょうが…)
※加えて「誤読を避ける」ということもキーワードにしてはいるのですが…

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それらの設定の苦労(特に「文字組みアキ量設定」)は、読み手には「行長調整を意識させない」ために却って「流し込んだだけ」と受け取られかねませんので少し寂しい気もするのですが、それは目指す組版の本質とは特に関係ありません(諦めましょう)。ただただ、気持ち良く読んでもらえればそれでいいのです。

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なお、+designing誌の特集34/38/40やその他の連載についても、基本的にこの考えに基づいた記述をしているつもりです。
※指定行長というか1行の字詰め数との兼ね合いも重要だと考えますが、ここでは言及しません。

こんなところでご質問に答えたことになっているでしょうか?
「いや、そういうことではなく…」ということであれば、いくらでもご質問を投げかけてください。
できる限りお答えいたします。
今後ともよろしくお願いします。

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このブログ読者の方もご質問などありましたらお気軽にどうぞ……。

*1:引用の了解は得ています

*2:この辺りを制御するのが「文字組アキ量設定」ですね…ですから本文組みにおいては「なし」にするのはダメ!…

*3:「禁則調整方式」という括りに疑問はありますが…

*4:本来はここで「ぶら下がり=ON」時のバグについて言及するべきなのですが…割愛しました → 参照

*5:もちろん設定自体が無意味だという例もありますが…